論 考

論 考

コロナ対策のこれまでと今後-大切なのは、目標の明確化、執行体制の集約化と借入償還計画だ。

 政府が東京都、大阪府や福岡県など6都道府県にコロナ感染に関する緊急事態宣言を行ったのは今年4月7日である。宣言は、5月25日に解除されたが、その後も感染は一進一退を続け、今日に至っている。海外では感染拡大が止まらず、ヨーロッパ諸国では感染の再発が起きている。日本でもこれから冬を迎えるにあたって、インフルエンザとコロナの同時感染が心配されている。

 そうしたなかでここでは、日本のコロナ対策のこれまでと今後について論じる。まず、最新の財政状況を踏まえて、緊急宣言以降これまでのコロナ対策の全体像を明らかにする。次に、具体的な取組内容を検討し、今後に向けて心がけなければならないことを示す。海外での取組なども踏まえて、コロナ対策の目標の明確化、執行体制の集約化と対策によって生じた借入の償還計画を立てることが大切であることを指摘する。

                                               

コロナ対策の全体像と財政

 緊急宣言以降、政府はコロナ対策として二つの補正予算を編成している。第1次補正予算は2020年4月30日、第2次補正予算は6月12日に成立している。表1は、2020年度の国の(コロナ対策費を含まない)当初予算と第2次補正後の予算を示したものである。ここからコロナ以前の「平時」において、歳出合計から歳入合計を引いた基礎的財政収支が9.2兆円の赤字であったことがわかる。それに国債利払費を加えた財政赤字は、17.6兆円に達していた。国の国民総生産(GDP)は550兆円程度なので、すでにその3.2%である。

 そこに巨大なコロナ対策が加わることになった。その結果、歳出合計は、79.3兆円から136.2兆円へと56.9兆円増大した。当初の歳出総額の72%にも及んでいる。財政赤字は74.7兆円、GDPの13.5%となった。今後、さらに歳出が拡大したり、歳入不足が明らかとなるにつれて、財政赤字は100兆円近くになる可能性がある。まさに空前の事態となっている。

 

表1 コロナ対策を含む国の一般会計予算         兆円

  2020年度
当初予算
2020年度
第2次補正後
歳出    
 一般歳出 63.5 120.4
  うち社会保障関係費 35.9 40.5
  うち社会保障関係以外 27.6 79.9
 地方交付税交付金等 15.8 15.8
歳出合計 79.3 136.2
     
歳入    
 税収 63.5 63.5
 その他収入 6.6 6.6
歳入合計 70.1 70.3
     
基礎的財政収支(赤字) 9.2 66.1
利払費 8.4 8.6
財政収支(赤字) 17.6 74.7

(注1) 2019年度補正後予算(2020年1月30日成立)は、補正予算に基づき筆者作成。

(注2) 歳出における、2020年度の当初予算と第2次補正後予算の差額、56.9兆円は、新型コロナウイルス感染症に係る支出額である。第1次補正、第2次補正成立は、各2020年4月30日と6月12日に成立

(出所) 田近(2020a)、財務省資料より筆者作成

 

 こうしたコロナ対策のための歳出拡大の結果、公債残高がGDP比率でみてどれだけとなるかを示したのが表2(次表)である。これは、表1と違って、内閣府の推計による国と地方を合わせた財政指標の一つであるが、地方はほぼ財政均衡状態にあるので、国の財政状況を反映しているとみてよい。ここで示した推計の経済前提となるのは、「ベースラインケース」と呼ばれ、「成長実現ケース」と比べて保守的な予想である。しかし、それでも想定されている経済成長率と物価上昇率 (実質1%程度、名目1%台前半、消費者物価上昇率0.7%程度) は、現実と比較すると楽観的である。また、コロナの収束を前提にしているためか、経済成長率は2021年度には実質3.4%(名目3.5%)程度と大幅な回復を想定している。

 期待も込めてこの将来推計が実現されることとし、国と地方の公債残高のGDP比率の2020年代の推移をみると、200%を下回ることはない。太平洋戦争終了間際の状態となっている(財務省、2020、p.66)。超低金利が続けば、いつかは債務残高をGDPの100%くらまで引き下げることができるという楽観的な見方が、もはや通用しない状態になっている。コロナ対策は、コロナ感染の収束と経済活動の回復を目指して、思い切った姿勢で臨まなくてはならないとしても、その後の財政を視野に入れた債務返済プランを今から立てておかなければならない。ここで示された推計は、そうした冷静な判断の必要性を私たちに訴えかけている。

 

表2 内閣府・中長期財政試算

― 国・地方の財政指標のGDP比率(ベースラインケース)

年度 2019 2020 2021 2025 2029
基礎的
財政収支
▲2.6%
14.5兆円
▲12.8%
67.5兆円
▲4.3%
23.4兆円
▲2.1%
12.6兆円
▲1.7%
10.3兆円
財政収支 ▲3.9% ▲14.1% ▲5.4% ▲2.9% ▲2.7%
公債残高 192.5% 216.4% 213.0% 210.0% 210.4%

(注1) 経済成長率は中長期的に実質1%程度、名目1%台前半程度、消費者物価上昇率は0.7%程度で推移すると仮定している。

(注2) コロナ感染により、2019年度の名目および実質GDP成長率、0.8%と0.0%は、2020年度にはそれぞれ-4.1%、-4.5%に下がったのち、2021年度には3.5%、3.4%へと急上昇すると仮定されている。

(注3) 名目GDPは、2019年度552.6兆円、2020年度529.8兆円、それ以降、2021、2025、2029の各年度では、548.5兆円、591.1兆円、619.5兆円と予想されている。

(出所)内閣府(2020)、「中長期の経済財政に関する試算」、7月31日。

 

コロナ感染にどう取り組むか

 ここではコロナ対策のこれまでを振り返り、今後に向けて、目標の明確化、執行体制の集約化、対策に伴う借入の償還計画の観点から検討を進める。

 

・目標の明確化

 上に述べた緊急事態宣言以降の二つの補正予算を通じて目指したコロナ対策とは、どのようなものであったか。それを明らかにしようと予算説明にあたっても、個々の予算の内容と金額は示されているが、二つの予算を通じる対策の全体像を記したものはなかった。緊急対策の内容を予算にどのようにして反映させたのかを明確にする必要がある。

 そこで筆者の視点で対策を構成してみたのが、表3である。感染防止・医療提供体制整備、給付金、金融支援、地方への配分、GoToキャンペーン事業、予備費などと並べてみた。このうち、感染防止・医療提供体制整備と給付金はまさに、コロナ緊急対応に必要なものである。金額的にも大きく、給付金総額はほぼ20兆円であり、そのうち一人一律10万円ずつ配られた「特別定額給付金」は、12.8兆円にもなっている。働く人々の休業補償である雇用調整助成金は、正規労働者であるか否かで、保険(雇用保険)と税金(一般会計)とから別々に給付されていることもわかる(表下段、注2)。

 対策として外部からよくわからないものの一つは、金融支援だ。それはコロナ禍で、資金繰りで困っている事業者や会社への支援だとはわかるが、融資と出資金では目的が異なるはずだ。融資は事業者などの支援であり、出資金は日本政策投資銀行などの自己資本の強化だ。また、金融機関を通じる融資がきちんと戻ってくるのか、それによって、結果的にかかる費用も異なってくる。以上を通じて、15.4兆円の金融支援のうち、結果的に渡し切りとなるのはどの程度で、国庫に戻るのはいくらか。今後、コロナ対策費の返済を計画するうえで重要なポイントの一つだ。

 そのほか、地方創生交付金はコロナ対策として何をしようとしているのだろうか。またそれが、国の行う支援とどう役割分担をしているのか。細かな点ではなく、この3兆円の予算の必要性のもっとわかりやすい説明が必要だ。

 補正予算でもっとも議論がなされたものの一つは、予備費である。使途が定められないまま、11.5兆円に及ぶ予備費は何に使われるのだろうか。その後、その使用実績の一部が明らかとなっているが(財務省・財政制度等審議会、2020a)、金額の大きなものでは、医療用マスク等の配布、持続化給付金、個人向け貸付(2件)、ワクチン確保、医療提供体制確保などがある。当初、それぞれにふさわしい項目に配分することができたものもあったのではないか。ここも細かな点ではなく、想定を超えて必要となる予備費とは何か。当初予算の不足分の充当のためか、新たな目標のためなのか、最初から可能性のある使途を示すべきだ。

 以上がこれまでの対策に関わる部分である。今後に向かっては、緊急事態の時と違って、支援はそれを真に必要とする人々、事業者や会社に集中させるべきである。また、緊急時とは異なった、新たな対策目標も設定するべきである。そこには、コロナ後の日本の行方を牽引するビジョンが求められる。EU諸国で言えばそれは、環境対策とデジタル化の推進ということになる(財務省・財政制度等審議会、2020b)。

 

表3 新型コロナウイルス感染症対策

2020年度第1次および第2次補正予算の構成         億円

  第1次補正予算 第2次補正予算 合計
感染防止・医療提供体制整備など 18,097 29,892 47,989
給付金 152,669 44,161 196,830
雇用調整助成金
 週20時間未満雇用者
【20時間以上は雇用保険給付】
690
【7,640】
4,519
【8,640】
5,209
【16,280】
 持続化給付金 23,176 19,400 42,576
 特別定額給付金 128,803   128,803
 家賃支援給付金   20,242 20,242
金融支援 38,316 116,387 154,703
 事業者と企業への融資等 38,316 92,695 130,911
 日本政策金融公庫への出資など   23,692 23,692
地方創生臨時交付金 10,000 20,000 30,000
Go Toキャンペーン事業等 18,482   18,482
予備費 15,000 100,000 115,000
国債整理基金特別会計へ繰入等 1,259 963 2.222
その他 3,091 7,710 10,801
合計 256,914 319,114 576,028

(注1) 第1次および第2次補正予算の原資は、全額公債金。

(注2) 雇用調整助成金のうち、週20時間未満雇用者を対象とするものは、コロナ禍で創設された緊急雇用安定助成金であり、全額一般会計で支給されている。【20時間以上は雇用保険給付】の部分は、正規労働者への支給を指す。ただし、支給日額上限の8,370円から15,000円(月額33万円)への引上げにともない、中小企業の支給上乗せ分は、一般会計からの支給となっている。

(注3) 金融支援には、国債整理基金特別会計への繰入(日本政策金融銀行の保有する交付国債の償還4,432億円)を含んでいる。

(出所) 財務省・財政制度等審議会(2020a, 2020c)などを参考に筆者作成。

 

 

・執行体制の集約化

 執行体制について簡潔に述べる。緊急事態下の取組だったこともあり、これまでの各対策の執行は縦割りに徹して、執行全体の管理が行き届いていなかった。給付金のうち、雇用調整助成金は厚労省、持続化給付金は経済産業省、特別定額給付金は総務省・市町村などである。

 縦割り行政自体が弊害なのではない。問題は、個人や事業主の所得情報が省庁間で共有できていれば、給付金の支給はもっと的確かつ効率的に行えたであろうということだ。持続化給付金の認定に必要な売上額などの情報は、税務申告の情報と連携していれば、申請の手間が省けるだけではなく、不正請求の防止にも役立ったはずである。

 また、税務申告の情報を用いることができれば、緊急時であっても、特別給付金は所得に一定の制限を設定して、実施できたはずである。実際、アメリカでは一人当たり7万5千ドルの所得制限を課した上で、給付を所得税の勤労税額控除を通じて行った。申告書に銀行口座の番号が記入されていれば、さらに素早く給付が行われた。

 それに対して、所得額の審査が困難だという理由で、日本では所得制限を課さず、一人一律10万円を定額で給付金した。マイナンバーカード・マイナポータルを使った迅速な給付のはずが、全国の市町村に仕事を割り振ったため、思わぬ混乱が生じてしまった。

 ここでは、税務申告情報と各種給付金の連携について指摘した。それに止まらず、消費促進を目標とするGoToキャンペーンなども、省庁間を超えて運営や情報管理を一元化することで、使い勝手のよい、またより大きな消費効果を実現できる仕組みにすることがきるのではないだろうか。そのためには、執行の司令塔と集約化が必要である。

 

・コロナ対策に伴う借入の償還計画

 コロナ感染の収束の目途がたっていない現在、コロナ対策に伴う借入の返済をただちに開始することは困難であり、またするべきことでもない。上に述べた目標の明確化と執行体制の集約化の徹底が先である。

 しかし、コロナ対策ですでに発生している60兆円に近い借入に加えて、コロナ感染で落ち込んだ経済を活性化させるために、今後、国のさらならなる歳出が見込まれる。それに、歳入不足も加えれば、コロナ対策による借入はさらに増加する。そうしたなか、コロナ対策に伴う借入の償還計画を今から立てておくことは重要である。

 この点参考となるのはドイツの取組である。ドイツでもコロナ対策によって、連邦政府の公債の対GDP比率は、70%を超えると見込まれている。そうしたなか、コロナの感染拡大期の対策に続いて、経済活動再開を見越した対策を積極的に講じている。その一方、連邦基本法に基づいて、今後20年間にわたって毎年一定額(590億ユーロ)の債務返済を行うことを決めている。財源など具体的な検討は、今後決定することとしている(財務省・財政制度等審議会、2020b; 田近、2020b)。

 国・地方を合わせた公債残高が、GDPの200%を超える日本にとって、ドイツのこうした取組みは参考となる。まずは、コロナ対策による借入と社会保障などその他要因による借入を分けて管理し、続いて、コロナ対策によるいわば緊急の借入の返済計画を立てるべきである。

 以上、今年4月の緊急事態宣言以降、政府の行ってきたコロナ対策のこれまでと今後のあり方について考えてきた。これからもコロナ禍の生活と経済活動が続くことを念頭におくと、大切なのは、対策の目標の明確化、執行に当たっての司令塔の重要性と将来を見据えたコロナ債務の償還計画を今から立てることである。最後の部分は、すでに国が大きな債務を抱えた日本では、なおのこと重要である。

 

 

参考文献

財務省、2020、「日本の財政関係資料集」、7月

財務省・財政制度等審議会、2020a、「説明資料(財政総論)」、10月1日

財務省・財政制度等審議会、2020b、「EU・ドイツにおける 新型コロナウイルス感染症の感染拡大を踏まえた政策対応 < 海外調査報告 補足資料 >」、7月2日

財務省・財政制度等審議会、2020c「説明資料(新型コロナウイルス感染症に係る対応について」、6月1日

田近栄治、2020a、「財政における社会保障費の現状―コロナ対策を含む財政の最新の状況を踏まえて」、『税研』、9月、pp.36-43」 

田近栄治、2020b、「コロナ時代の財政政策―ドイツからの示唆」、7月、東京財団

内閣府、2020、「中長期の経済財政に関する試算」、7月31日、経済財政諮問会議提出

田近  栄治

田近  栄治

一橋大学名誉教授