論 考
連合会病院における新型コロナ感染症対応
連合会病院:組合員、組合員OB、家族、及び地域住民に良質な医療サービスを提供する。
(直営病院)国共済法第21条第2項第3号に定める福祉事業。
(旧令病院)旧令特別措置法第3条第1項及び附則第3項に基づき海軍共済組合病院を
引き継いだ事業。
2020年2月 ダイヤモンド・プリンセス号 感染拡大初期の対応、風評被害。
2月23日 北陸病院に感染者が受診したことからの風評被害。
3月13日 特別措置法成立(緊急事態宣言などを規定)。
4月7日 東京都、初の緊急事態宣言(4月7日-5月25日)。
4月15日 人との接触を8割制限しないと42万人死亡との試算
(北大の西浦教授)。
7月2日-8日 東京、札幌、神奈川、福岡、現地視察。
7月16日 連合会病院、第1回新型コロナウィルス対応検証会議¹。
7月22日 連合会病院内で、初のクラスター発生²。
9月 虎の門病院に看護師による相談窓口開設。
12月4日 第2回新型コロナウィルス対応検証会議³。
2021年1月29日 新型コロナウィルス感染症対応病床確保に関する緊急会議⁴。
2月 医療関係者へのワクチン先行接種開始。
2月17日 斗南病院の対応、東京都の下り患者搬送体制に関する意見交換会。
4月15日 第3回新型コロナウィルス対応検証会議。
4月25日 コロナ対応病床等に係る情報開示について東京都に要望(非公開)⁵。
7月12日 東京オリンピック無観客開催⁶。
7月15日 第4回新型コロナウィルス対応検証会議⁷。
7月29日 コロナ対応病床に関する情報共有体制の整備について東京都に要望。
――――――――――――――
¹施設の構造やスキルが大きく異なる各病院の知識やノウハウ等の共有。
²その後、11施設14件のクラスター発生。Gotoトラベル・キャンペーン開始。
³新型コロナ患者の受け入れを拒否する医師の存在等の問題点を把握。
⁴1月8日、東京都から機械的な試算に基づく一律的な増床要請(Web会議)。
虎の門病院における下り患者問題の確認。地域から病院への差し入れの実情。
⁵第4波の時に、1,300床弱がブラック・ボックス状態だった。
⁶ワクチン2回接種比率20.3%(11月29日、77.3%)。
⁷阿南英明医療危機対策統括官(神奈川県)の講演等。
10月15日 次の感染拡大に向けた安心確保のための取り組みの全体像の骨格⁸。
12月2-3日 経営戦略会議⁹。
連合会病院の対応¹⁰
帰国者・接触者・発熱者外来設置¹¹。
感染管理実務者会議¹²。
地域住民へのワクチン接種。
大阪府、沖縄県、一都三県への看護師派遣¹³。
非接触による医療提供体制の整備¹⁴。
(1)札幌の連合会病院
全医師、看護師での対応(斗南病院)。
道市の関係部局、北大病院との連携。
(2)神奈川の連合会病院
神奈川方式への協力。
(3)東京の連合会病院
コロナ専用病院となった都立広尾病院などからの患者の受け入れ。
連合会病院同士での転院調整(虎の門と九段坂)。
連合会本部の対応
東京都に対して病床調整円滑化のための関係医療機関への情報公開要望。
月2回の常務会で、各病院における患者受け入れ状況の報告。
新型コロナウィルス感染症対応基金設立¹⁵。
新型コロナウィルス感染症対応特別手当と感染症慰労金(補助金財源)の支給。
2021年10月、KKRメンタルヘルス支援制度設立¹⁶。
――――――――――――――
⁸医療体制の稼働状況の徹底的「見える化」を打ち出す。
⁹宮地正彦中東遠総合医療センター(静岡県)企業長の講演等。
¹⁰延べ陽性患者6,814人、疑似症患者22,889人。
(2021年12月3日現在)。
¹¹2020年3月26日現在、13病院。
¹²2020年6月、9月、10月、2021年6月、10月。
¹³大阪へ15名(201人日)、沖縄へ21名(295人日)、一都三県へ 3 名。
¹⁴オンライン診療、AIを用いた入院案内システム、オンライン面会。
¹⁵赤字病院への運転資金貸付、医療用マスク等の衛生材料の確保・配分、
PCR検査機器や紫外線照射殺菌装置の整備。
¹⁶精神科医などの専門家が在籍していない施設へのサポート。
連合会宿泊施設の対応
ダイヤモンド・プリンセス号感染対応で濃厚接触者となった関係者の受け入れ。
大規模なクラスター発生により隔離が必要になった老健施設の職員の受け入れ¹⁷。
医療従事者支援プラン¹⁸。
――――――――――――――
¹⁷延べ248名。
¹⁸自宅に戻れない医療機関勤務組合員等に2000円での客室提供
(延べ2,495名)。
この他、医療機関へ2,052食の弁当無償提供を行った。
我が国における新型コロナウィルス感染症対応の特徴
欧米諸国¹⁹に比べて日本は際立って良い状況²⁰だが、 著名人の死亡²¹もあって
コロナ敗戦といわれ、医療崩壊が心配された²²。
感染症の2類相当とされて行政府主導での対応
その結果、フリー・アクセスが認められなくなり、一般の医者が診療しなくなった²³。
発熱した疑い患者は、限られた 発熱外来設置病院での診察しか受けられなくなった。
国は、コロナ対応登録病床に最大30.1万円(1床あたり日額)²⁴の補助金をつけて
病床確保を図ったが、医療従事者(特に看護師)にコロナ患者対応への抵抗感が強く、
事前に感染拡大期における人的手当の調整ができない病院が生じた²⁵。
病院間調整がうまく機能しなかった東京都では、多くの保健所がパンク ²⁶。
その背景に、中等症対応病院を中心に、重症化した時への心配から登録病床数に対して
ごく少数の受け入れに限った所が生じたことがあると思われる²⁷。
重症化対応病院では、回復した患者を「下り搬送」できず、重症化病床を活用できない
事態が発生した。
――――――――――――――
¹⁹欧州、米国では、医療崩壊が生じ、死者の激増、埋葬待ちの遺体の保冷車保管等の
ニュースが流れた。医師や看護師の死亡も報じられた。世界人口20億人の時代に、
5,000万から1億人(日本でも39万人)の死者を出したとされるスペイン
風邪の記憶がよみがえった。
²⁰コロナ感染期における超過死亡率が平年を下回り、平均寿命が延びた( FTグラフ)。
²¹志村けん、立石義雄、岡江久美子、岡本 行夫、羽田雄一郎など。
²²2021年11月の欧米の死者数(毎日)は、米国1,000人以上、英国、ドイツ
ともに約200人だが、医療崩壊といった報道はない
(日本のピークは、1 月の140人)。
²³医師法19条は「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な
事由がなければ、これを拒んではならない」と定めている。
²⁴重点医療機関・協力医療機関は5.2万円~30.1万円、その他の医療機関は
1.6万円~4.7万円。
²⁵吉田勝明神奈川県病院協会長「いくらコロナ用に病床を出せと言われても、要請に
応じられない正当な理由なんて、病院側はいくらでも言える 」
(産経新聞、2021.11)。
²⁶墨田区では、早期にコロナ対応の医療機関名公表に踏み切り保健所もしっかりと
機能。
²⁷東京都が、2021年7月28日、8月17日に開催した、都内の病院管理者への
稼働要請説明会では、「高齢で元気な人が入院しているが、ホテル療養の基準は」
など、厳しい質疑が出された。都は、8月18日以降、確保病床の稼働率が3割を
切っている医療機関について、個別にヒアリングを予定すると説明。
病床補助金を受ける病院は、原則、入院要請に即応が要件だが、看護師の確保等に時間が
かかる場合、1週間程度のうちに対応可能であれば「確保」と認める運用を予定していた
が(厚労省コロナ本部)、 現場の運用は必ずしもそうならなかった。
医師、看護師、事務部門²⁸、3者の連携が重要で、病院長のリーダーシップが問われた。
医療関係者の中でも、最も負担の大きかったのが看護師²⁹。
コロナ対応部局以外の患者が減少し、医療資源のアイドリング状況が生じた。
――――――――――――――
²⁸病院入口ゲートの一本化、発熱外来の設置、来院者のスクリーニング施設設置、
ゾーニング設置、患者移送時の動線確保、専用エレベーターの確保、人員調整等を
担当。
²⁹防護服を着ての、食事、清掃、身の回りの世話。認知症患者の徘徊防止。 子供が
保育園に受け入れてもらえないなど、地域での、いわれのない誹謗中傷。自分が
感染すること、それによって感染源となることへの不安や恐怖から家族と隔離しての
通院。各病院では、患者対応への緊張感、多忙感、疲労感に加え、長期の強度な
ストレスの後のバーンアウト等についてのメンタル・サポートを行ってきた。
松元 崇
国家公務員共済組合連合会理事長